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 『夕凪の街 桜の国』 こうの史代:著 [コミックス]


夕凪の街桜の国

夕凪の街桜の国

 広告で見て知ったのだけど、今でもこんな「太平洋戦争もの」を描く人がいるんだ。まず、それが最初の感想。

 というのも、私の子どものころは――遙か20~30年も前のことだけど――毎年、夏になると、まず映画を見せられたし、テレビなどでも特集をしていたし、『中○時代』のような学習誌や、コミックス雑誌などでも、必ずひとつは作品として載っていた。ある種の風物詩というか、夏には必ず話題になる行事。思い返せば、そんな印象がある。

 それが、年々、熱が冷めるように、規模が小さくなっていき、そんなことを話題にするのはクールじゃない、みたいな風潮になっていったように感じるのは、私の思い過ごしだろうか。小説にせよコミックスにせよ、戦争のことばかり書き続けるのはダサイこと。そんな風に見えたものだったけれど……。

 たしかに、重いテーマ。受け止めるのはシンドイ。

 考えても、答えは出ない。戦争に反対すること? それは誰もが思ってることだろう。好んで戦場に行く人はいない。“行かせたがる人”は大勢、いるだろうけれども。

 だからこそ、今、必要なんだ、と作者も言いたかったのだろう。憲法改正論議が盛んになってきて、9条の命も風前の灯火(ともしび)と化した今だからこそ。


 主人公は、年若い女性。夢と言ってもささやかな、本当に平凡なものでしかないような。彼女の日常は、淡々と描かれている絵柄そのもののように静か。

 それが、徐々に変わってゆく。“被爆”という事実の前に、人生の扉が開かれているのではなく、閉まってゆくのが見えるのだ。

 「セカチュー」どころじゃない。原爆によって白血病になった人たちは、それこそ純愛どころじゃなかったろう。それ以前に、人生を断ち切られている。被爆の度合いで差別があった、とも何かで読んだ。あの作品に対して、私を含め、40代以上の批判が多かったように見えるけれども、それは先に描いたように、子どものころにさんざん見聞きした被爆の事実から、「白血病を軽々しく扱ってほしくない」「単なる純愛の、純愛物の道具にするな」という想いがあったように感じる。(もちろん、映画『ある愛の詩』に代表される、病気=白血病で生き別れる恋人たち、というテーマの作品が連綿とあったことも事実だけれど)


 『夕凪の街桜の国』に戻れば、大上段に構えるのではなく、ちっぽけな一人の人間の生活を描いているからこそ、胸に迫る。これが、私だったら……。この時代に、生まれていたのだとしたら……。

 そう思うことが大切なんだと思う。想像力を働かせることが。身近に引き寄せて考えることを、この作品は求めているのだと。



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