『博士の愛した数式』読破 [小説]
文庫版を買ったのはいいけれど、外出先で読む本にして鞄に入れっぱなしだったせいで、読了に少しばかり時間がかかってしまった。
最初に(単行本を)図書館で見かけたとき、変わったタイトルに心惹かれたのだけど、他にも借りたい本が山ほどあって、そのときは断念。次に行ったときには、もう借り出されていて、以来、なかなか縁がなかった。
そうしているうちに、本屋大賞に選ばれ、あれよあれよと売れ筋、人気作に、映画化の話まで持ち上がって……。
そうなると、私の“天の邪鬼な精神”が本作から気持ちを遠ざける。今回、文庫になるまで、なかなか読む機会がなかった。
バカですね~。(>_<)ヽ
ときに私のメインストリーム嫌い(?)は、私に損をさせる。
いや~、いい話でした。
主人公の女性の1人語り(1人称)なんだけれど、彼女の性格を表すかのように――って当たり前なんだけど――淡々として静謐な描写、生真面目な文章が、心地よく作品内世界に浸らせてくれる。
ファンの人に言わせると、小川洋子さんにしては、“いつもの”毒がなく、ちょっぴり魅力に欠ける、そうだけれど、作品としてはこれでいいのではないだろうか。ラストでは思わず涙しちゃったし。
「泣きの入る話」が最近の流行(?)みたいだけれど、安易な病気ものとか悲劇だけが涙を呼ぶわけじゃない、という恰好の見本みたいな本。
大体、死に別れるとか病気とか、悲劇が悲しいのは当たり前なんだしね。それ以外のところ(テーマや描写)で、じんわり来る涙、胸に迫るものを体験して欲しいなぁ、と(活字中毒者としては)思う。その点、本作はぴったり。
タイトルにあるとおり、陰の主役は“数字”、あるいは“数式”。でも、それはお堅い解説書みたいな役割でなく、出てくる人物たちと複雑に絡み合っていて、とても魅力的なものに思えてくるから不思議。
もちろん、「博士」がそのように語ってくれるから、という理由もあるのだけど……。
近ごろ、子どもが中学生になったせいで、あれこれ数学の本を買い込んでいる。楽しいものも多くなってきたけれど、この本は、それらに加えて、子どもたちを数学好きにする格好の書だとも思う。
こんなにも魅力的に「数式」の語られた物語があっただろうか。とは、あちこちの書評に書かれた言葉だけれど、おおいにうなずける。
「博士」は野球好きで、野球を数字で語ってもくれるのだけど、それらが相まって、この世は不思議に満ちているってことを実感させてくれるのだ。
まさしく「センス;オブ・ワンダー」。
そして、それだけではないところが、この本をさらに魅力的にしてる。後書きにもあったけれど、本作ではけっこう重要な役割をする、ある“数”。これを見つけたときには、作者は小躍りしただろう、と。
いや~、数字の不思議と同等に、こんな“偶然”もまた、この世の不思議といってもいいかもしれないなぁ。ミステリー並に、ゾクゾクした。
というわけ(?)で、この本は、実に多彩な面白さを抱えている。SFでもあり、ミステリーでもあり、(ほのかな)恋愛物でもあり、啓蒙書の役割もしていて、色んな人に読んで欲しいなぁと思う。
とくに、子どもたちに。
少し硬い感じの文章が、取っつきにくいかもしれないけれど、主人公の子ども(ルートと呼ばれる)が、陰の主役でもあって、彼に寄りそって呼んでいけば、楽しいと思う。
野球嫌いな私でも、野球って楽しそう、なんて思ったくらいだから。
★bk-1
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