『ハサミ男』文庫版 [ミステリー、SF]
見てから読むか、読んでから見るか。
昔、そんなキャッチコピーが世間を席巻していた。角○書店が映画を作っていた頃。(コピーは逆だったかも)
その差は結構、大きいと思う。
2年前にDVDを見たことで、娘の方がハマって(?)しまい、この文庫を買ってきて読んでいた。「映画とは、ずいぶん違うよ~」というのが、当時の娘の感想だった。
私は映画を見て満足し、そのままになっていた。
今回、再度、映画を見直して、ちょっと読んでみる気になった。
★キーワード:ハサミ男 (講談社文庫)
映画を先に見てしまったので、トリックを暴く楽しみ、犯人捜しの楽しみは無し。――もっとも、原作と映画版では犯人が違う、なんてこともあるので、それなりに心の準備(?)はしてましたが。
(ネタバレ注意)
「メフィスト賞」ものは、内容優先で文章そのものは今イチ、といった印象。なので、“本読み”を自称する者としては、少々物足りない。
まぁ、その辺はデビュー作ということもあるのだろうけど、文章が描写というより説明的で、本の中の世界へ入りづらい。
とくに主人公の一人称の章は、トリックの一部ということもあるのかもしれないけれども、パーソナリティを感じられないので、殺人も自殺願望もピンと来ない。トリックとしてはフェアなのだけれど、抑制しすぎたのか、単に技量不足なのか……。
むしろ、三人称で書かれている警察でのやりとり、刑事たちの話のほうが生き生きとしていて、作者も楽しんで書いている感じがした。
クライマックス、犯人が判明して展開が早くなるところは映画とほとんど同じ。ただ、唐突感は否めない。え? いきなりここで? という思いを抱く。
そしてラスト。映画がより人の心の深層にまで迫る勢いだっただけに、この結末かよ~、と。
結局、チカはどういう人間だったの? とか、これからどうなるの~、といった疑問が解決されないまま、断ち切られた感じ。
まぁ、トリックを楽しむタイプの小説なのだろうから、これ以上、ケチを付けるのは間違いだろう。映画を先に見てしまったから、その映画を楽しんでしまったからこその感想かもしれない。