SSブログ

 『博士の愛した数式』読破 [小説]





博士の愛した数式
博士の愛した数式
posted with amazlet on 06.04.02
小川 洋子 新潮社 (2005/11/26)

 文庫版を買ったのはいいけれど、外出先で読む本にして鞄に入れっぱなしだったせいで、読了に少しばかり時間がかかってしまった。

 最初に(単行本を)図書館で見かけたとき、変わったタイトルに心惹かれたのだけど、他にも借りたい本が山ほどあって、そのときは断念。次に行ったときには、もう借り出されていて、以来、なかなか縁がなかった。

 そうしているうちに、本屋大賞に選ばれ、あれよあれよと売れ筋、人気作に、映画化の話まで持ち上がって……。

 そうなると、私の“天の邪鬼な精神”が本作から気持ちを遠ざける。今回、文庫になるまで、なかなか読む機会がなかった。

 バカですね~。(>_<)ヽ

 ときに私のメインストリーム嫌い(?)は、私に損をさせる。



 いや~、いい話でした。

 主人公の女性の1人語り(1人称)なんだけれど、彼女の性格を表すかのように――って当たり前なんだけど――淡々として静謐な描写、生真面目な文章が、心地よく作品内世界に浸らせてくれる。

 ファンの人に言わせると、小川洋子さんにしては、“いつもの”毒がなく、ちょっぴり魅力に欠ける、そうだけれど、作品としてはこれでいいのではないだろうか。ラストでは思わず涙しちゃったし。

 「泣きの入る話」が最近の流行(?)みたいだけれど、安易な病気ものとか悲劇だけが涙を呼ぶわけじゃない、という恰好の見本みたいな本。

 大体、死に別れるとか病気とか、悲劇が悲しいのは当たり前なんだしね。それ以外のところ(テーマや描写)で、じんわり来る涙、胸に迫るものを体験して欲しいなぁ、と(活字中毒者としては)思う。その点、本作はぴったり。

 タイトルにあるとおり、陰の主役は“数字”、あるいは“数式”。でも、それはお堅い解説書みたいな役割でなく、出てくる人物たちと複雑に絡み合っていて、とても魅力的なものに思えてくるから不思議。

 もちろん、「博士」がそのように語ってくれるから、という理由もあるのだけど……。

 近ごろ、子どもが中学生になったせいで、あれこれ数学の本を買い込んでいる。楽しいものも多くなってきたけれど、この本は、それらに加えて、子どもたちを数学好きにする格好の書だとも思う。

 こんなにも魅力的に「数式」の語られた物語があっただろうか。とは、あちこちの書評に書かれた言葉だけれど、おおいにうなずける。

 「博士」は野球好きで、野球を数字で語ってもくれるのだけど、それらが相まって、この世は不思議に満ちているってことを実感させてくれるのだ。

 まさしく「センス;オブ・ワンダー」。

 そして、それだけではないところが、この本をさらに魅力的にしてる。後書きにもあったけれど、本作ではけっこう重要な役割をする、ある“数”。これを見つけたときには、作者は小躍りしただろう、と。

 いや~、数字の不思議と同等に、こんな“偶然”もまた、この世の不思議といってもいいかもしれないなぁ。ミステリー並に、ゾクゾクした。

 というわけ(?)で、この本は、実に多彩な面白さを抱えている。SFでもあり、ミステリーでもあり、(ほのかな)恋愛物でもあり、啓蒙書の役割もしていて、色んな人に読んで欲しいなぁと思う。

 とくに、子どもたちに。

 少し硬い感じの文章が、取っつきにくいかもしれないけれど、主人公の子ども(ルートと呼ばれる)が、陰の主役でもあって、彼に寄りそって呼んでいけば、楽しいと思う。

 野球嫌いな私でも、野球って楽しそう、なんて思ったくらいだから。


★bk-1

博士の愛した数式
小川 洋子著
(・e・)



この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。